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クニモンド瀧口、DJ CHINTAM、DJ NOTOYAによるスペシャル・シティポップ鼎談 シティポップをめぐる現状とその行方

近年、日本だけでなくヨーロッパ、アメリカ、アジア各国でも盛り上がりを見せ、世界的なムーブメントとして話題を集めているシティポップ。1970年代後半から1980年代の高度経済成長期の出現とともに現れた音楽ジャンルは世代を超えて、複合的にさまざまなカルチャーを巻き込みながら、2022年に至ってもなお脈々とグローバルな発展を続けている。
近年の大きなトピックとして、2020年に松原みきの「真夜中のドア」が世界92か国のApple MusicのJ-Popランキング入りを果たし、Spotifyグローバルバイラルチャート18日連続世界1位を記録、竹内まりやの「Plastic Love」も2017年に非公式でYouTubeにアップロードされた動画で火がつき、2022年現在、公式にアップロードされた動画も1,000万以上という驚異的な再生回数を叩き出している。
なぜそこまでシティポップがムーブメントになっているのか、という説明はたくさんの記事が出ているので割愛するとして、ここ数年で明らかに加速度的に変化しつつあるシティポップや和モノをめぐる国内外の状況とその行方について、自身のプロジェクトである流線形や数々のプロデューサーワークで現行シティポップのオリジネーターと言っても過言ではないクニモンド瀧口、『和モノA to Z Japanese Groove Disc Guide』の監修・執筆、楽曲のRe-Edit Work、DJ、レコードバイヤーとしても活躍するDJ CHINTAM、和モノオンリーのDisco~Boogie~Modern SoulのMIX CD『Tokyo 1980s』で、クラブミュージック解釈としてのシティポップを広め、世界からも熱いラブコールを受けるDJ NOTOYAにお集まりいただき、DJ CHINTAMがオーナーを務める渋谷のレコード・バーBLOW UPにて鼎談が実現した。
取材/文:DJサモハンキンポー
撮影:松下絵真
撮影協力:BLOW UP

 

――ちょうど2018年に松原みきの「真夜中のドア」を12inchで再発させていただいたことがあったんですけど、去年のレコードの日で再発された時は桁が一つ違っていたんですね。シティポップがさまざまな状況の中で姿形を変えながら、海外でのシェアの増大という大きな要因を抱えつつ、ここ数年で商業的な売上においても違うフェーズに入ったなという実感がありまして。

DJ NOTOYA : 5年前ぐらいから「Plastic Love」はわりとメジャーというか市民権を得てきて、そこからどんどん海外でも掘り下げられていってる感じですね。近年中古市場の相場が著しく上がっていて、2,000円だったのがいきなり30,000円になるとかはザラにあります。
僕もネットレコ屋をやっているんですけど、買ってくれるのは9割以上海外の方で、シティポップに関して言えば昔はDJしか買わなかったんだけど、だんだんコレクターの人たちが買うようになってきたっていうのはありますね。

DJ CHINTAM : バイヤーからするとピックアップされるアーティストが2017〜2018年くらいから変わってきて、同じアルバムでも取り上げられる曲が変わってきましたよね。全くノーマークだったようなタイトルとか、全然知らないアーティストがどんどん再発されていってる。DJ目線で言うと、少し前まで70年代後半くらいが旬だなという実感があったんですけど、いつの間にか80年代の音楽にガラッと様変わりしていて、そのあたりから自分達が思っている以上にシティポップっていうのが変わり始めたというか。ちょっと想定外。
やっぱりYouTubeとかで若い世代の人たちが気軽に聴けるようになったのも大きかった。本当に桁が違うというか、海外狙い系のタイトルって感じの流れになってきていて、市場規模がどんどん大きくなっていますね。

――よりアーカイブが深く掘り下げられ始めているということですね。
若い世代の人たちがYouTubeやオンラインプラットフォームなどで掘っている楽曲の中でそこからサンプリングされて発展していっているものに関して、70年代のジャズファンクやレアグルーヴよりは80年代のブギー的なものの方が受け入れられているのかなという印象があります。

DJ NOTOYA : ブギーものに関してはアメリカと同時期に流行ってきた感はあって、最初にSoundCloudに和モノブギーのミックスを上げたのが2011年だったんですけど、その頃Dam-Funkとかが出てきて、ブギーって言葉が日本のDJの間でも市民権を獲得し始めた。自分がDam-Funkだったらかける曲っていうのを妄想してセレクションしましたね(笑)。その頃からTuxedoが出てきたり、Bruno Marsが80sファンクっぽい曲を出してきたり、同時に日本のブギーも飛び道具みたいな感じで、英語圏以外の国のブギーに火がつき始めた時期に注目され始めていった気がします。

DJ CHINTAM : Boiler RoomのDmitri From Parisとかもすごかったよね。西城秀樹の「Through The Night」をキメどころでブリブリかけてて向こうの人の盛り上がりもすごかったじゃないですか。

クニモンド瀧口 : 海外はブームとかとは違って純粋に新鮮な音楽として聴いている感じがしますよね。
国内に比べ海外のキッズたちはかなりマニアックで、それこそ今僕のSpotifyのアクセス数を見ると、旧譜は一番多いのがアメリカなんです。流線形に関しては国内のリスナー層は40代の方が多くて、海外で効かれているのは10代〜20代の割合が多いですね。

DJ NOTOYA : 僕も2018年にビクターから出した公式ミックス『Tokyo 1980s Victor Edition – Boogie, Funk & Modern Soul from Japan』は、Spotifyでのストリーミング数一位の都市がロサンゼルスで、次いで東南アジアや南米の都市ですね。そのあたりの国ってサブスク人口が桁違いに多いらしいので、分母がでかいからそういうニッチなジャンルを聴く人の数も相当いるみたいで。

――なるほど。海外で流線形が発見されたのはどういうタイミングだったんですか?

クニモンド瀧口 : 2003年に流線形のファースト・アルバム『City Music』をリリースしたんですが、そのときにアマゾンのコメント欄を見たら海外の人の書き込みが結構多かったんですね。当時から意外と海外で和モノを掘っている人が多かったんだなという実感はあって、一部のマニアの間で日本のアートロックとかも流行っていたので、そういう流れで和モノを掘っている人もいたと思うんですよ。その頃はCity Popとは書いていなくて、Japanese Rare Grooveとか、70’s Groovy, Funky Feelなんて書かれていましたね。

DJ CHINTAM :ブームとしてはかなり長いですよ。

DJ NOTOYA : カタログ数がとにかく多いっていうのも要因としてはあると思いますね。メジャーどころは出てきたけど、探せばもっとあるじゃんみたいな感じで、飽きさせないでエンターテインし続けてられているっていう。

クニモンド瀧口 :某アーチストのマネージャーで、海外の方が書いていたんですけど、最近のアメリカでのブームの背景として、親がBobby CaldwellやAORを聴いていた世代の子供たちが、10代の時に親のレコードを漁っていて、だんだん飽きてきてもっといいのないかなってYouTubeとかSpotifyで探り始めて、そこにマッチしたのが日本のシティポップ。キッズたちが食いついたというのはそこが大きいみたい。

――海外ではシティポップがニュージェネレーションに浸透し始めているということですよね。

クニモンド瀧口 : だから、日本のシティポップに影響を受けてトラックメイクをしている若い世代も最近すごく増えていて、韓国とか、完全にシティポップマナーで新しいポップスを作ろうとしている。
そう言った意味では、たぶん日本は遅れていると思うんですね。ようやくシティポップがメディアで取り上げられたりする機会が増えてきて、日本の若い子たちもこういうのがあるんだ、っていう風になってきているんじゃないですかね。

DJ CHINTAM : アーティストや曲は頭に入っていて聴いてはいるんだけど、どれがシティポップとかっていう聴き方はしてないないんじゃないかと思う。シティポップっていうワードにそこまで気がついてないというか、自分達が思っているよりシティポップって言葉は若い世代にはまだ浸透していない気がします。

――国内外でのリスナーの違いが浮き彫りになってきたところで、さまざまな問題も孕みつつ発展してきたシティポップがここからどのように形を変えていくと思われますか?
また、今後どのように関わっていきたい、などの展望もあれば教えてください。

クニモンド瀧口 : 僕はまだ5年〜10年くらいは続いていくんじゃないか思っていて、やっぱりレコード業界とかはシティポップが売れるのは分かっているので、シティポップが楽曲のスタンダードになって、たとえばアイドルとかメジャーなシーンでシティポップがより受容されることが増えていきそうな気がします。韓国など、海外のアーチストがシティポップをオマージュしているのを、日本人がマネしてやり始めていますね(笑)。

DJ NOTOYA : 日本はまだまだシティポップの現行アーチストはインディー止まりな感じがしますね。

クニモンド瀧口 : カルチャーっていう部分でも、永井博さんの絵が今ちょうどUNIQLOのTシャツになったりしていますよね。シティポップのアイコンとしての永井さんのイラストをはじめ、江口寿史さんや鈴木英人さん、わたせせいぞうさんなども注目されています。シティポップ・ムーブメントっていうのは音楽に限らずファッション、アートも追随してきているし、そういった意味でもまだまだ続くんじゃないですかね。僕も20年くらい前からシティポップって括りではなくそういうものを聴いていたりしたけど、メディアなどが参入して一般的になったのはここ5年くらいかなと思います。
NOTOYAくんはどう?

DJ NOTOYA : さっき話に出したビクターのミックスは、データを見ると日本でほとんど聴かれてないんですけど、海外からのストリーミング数がトータル1,000万回以上になっていて。そういう曲を他の日本のメジャーレーベルに持っていって、当時誰も見向きもしなかったようなマニアックな曲でもサブスクに出すと売れますよっていうのを営業かけています。まだまだ眠っているカタログや評価されてないアーティストを発掘することで、アーティストさん本人や作詞家・作曲家などのオリジネーターの人たちにお金が入っていくようにしていきたいですね。

DJ CHINTAM : 僕もNOTOYAと同じような感覚なんですけど、和モノAtoZっていうシリーズを今やらせてもらっているので、その中で出した方がいいなとか、今旬だなっていうようなタイトルを自分がDJとしてもプレイしながら初7inch化みたいな感じで提示していければなあと。
シティポップはこれからも続いていくとは思うんですけど、個人的には70年代くらいの源流とされる音源もピックアップして欲しいなっていう気持ちもあって。自分達が持っているアーカイヴとかもメーカーさんが知らない曲も多いので、なるべくそういうものを掘り起こしてピックアップできたらいいですよね。再発盤に関しては買えそうで買えない希少盤のニュアンスも必要だと思うし、色々な楽しみ方を残しつつ、意義のある再発を、愛を持って良い形で丁寧にリリースするということが結局はシーンの存続につながっていくんだと思います。

CITY POP Selections
「まだ再評価されていないシティポップ」
――最後に御三方に「まだ再評価されていないシティポップ」と題して、それぞれ一枚ずつ持ってきていただきました。

クニモンド瀧口selected
清水健太郎「ドロウ/スクリュードライバー」(CBS / Sony Records,1977)

クニモンド滝口 : 若い人の財布にもやさしい、安く買える盤にしようかなと思って持ってきました。これは多分200円くらいで買えるやつですね。作曲は本人が手がけたボッサ歌謡のシティポップです。

 

DJ CHINTAM selected
いしだけいこ「ふりむいて」  (RCA 1977年)

DJ CHINTAM : シティポップとワードがまだ無い時代、この楽曲みたく歌謡曲の歌い回しながらも演奏がグルーヴィーでドラマチックに展開する楽曲を一部では『ニュー・ソウル』や『シティ・ソウル』と言われている時期がありました。それを象徴する様な楽曲。
こんなニュアンスの楽曲を聴いて80年代のシティ・ポップを聴いてみるとまた印象が変わるかもしれませんね。(作詞・作曲:いしだけいこ 編曲:信田一男)

 

DJ NOTOYA selected
路面電車「ムーンハイウェイ」(Mix Records,1978)

DJ NOTOYA : ぱっと見めちゃくちゃフォークみたいなジャケットの自主盤です笑
「ムーン」とか「ハイウェイ」って単語に引っかかってちょっと聴いてみようかなと思って聴いてみたら良いんですよ。Mix Recordsって京都のインディーレーベルだったみたいなんですけど。コード進行が洋楽っぽくて、今聴いても古くならないんですよね。

〒150-0043
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営業日:月曜日~土曜日17:00~24:00
日曜日・祝日 定休日(不定休あり)

URL. http://www.blowup-records.com
Instagram : blowuprecords

US、UK、国内からの買取で展開するレコードショップ&バー。
国内外から随時入荷する厳選した新譜・中古レコードを中心に取り揃えるだけでなく、
バーとしても展開しており、こだわりのレモンサワーをはじめとした各種お酒や, 熊本直送の馬スジで仕込む『馬スジ煮込み』が名物。

週末には『BLOW UP @ THE SOUNDS』というプログラムを催し、お店に縁のあるDJが店内を賑やかしております。
また、毎週金曜日限定でランチ営業(12:00~14:00)をしており、スパイシーポークカレーと日替わりカレーが楽しめます。

昼夜問わずこだわりのお酒や料理を楽しみながらレコードを掘ることができ、音楽フリークが集まる隠れ家的なショップとしてご利用頂ければ幸いです。

 
 

 
 
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